SM株式取得にみるHYBEの現在と未来

先日2月16日に韓国エンタメ界で大きなニュースが流れました。「HYBEがSMの株式14.8%を約4200億ウォン(約440億円)で取得し筆頭株主に」との事です。

このニュースは韓国芸能界にとって二つの側面があるかと思います。一つは長く続いたSMお家騒動の決着が近づいたこと。もう一つはHYBEがさらに強大な事務所になり始めたこと。今回はこの中でも後者HYBEのビジネスに焦点を当てて考察してみます。

HYBEがSM株式を買収!?

HYBEは言わずと知れた、BTSを抱え、最近ではLE SSERAFIMやNew Jeansなど新グループを続々とデビューさせている韓国芸能界最大手事務所です。一方SMは、東方神起やSuper Juniorなどが所属している業界二位の事務所。HYBEと比べると少し伝統的な芸能事務所といったところでしょうか。このニュースの直前にKakao がSMの株式取得した、というニュースが出ており、その3日後にHYBEがイ•スマンの株式を取得し、筆頭株主になるというニュースがでてきました。Kakaoの件に対して反射的にこの話が進んだことは間違いありません。Kakaoの参入を拒むイ•スマンと、レーベル買収を進めるHYBEとの間で急転直下で話がすすんだのでしょう。

HYBEがSMの筆頭株主になるということは、韓国芸能業界1位と2位が資本関係で結びつき時価総額11兆ウォンのエンターテイメント企業が誕生するということなので、強力な勢力になることは間違いありません。

出典:https://smtown.jp/news/

HYBEはどこに向かっている?

HYBEは、これまでにもSMだけではなく、2021年4月にはJustin BieberやAriana Grandeが所属するアメリカのIthaca Holdingを約1200億円で買収し、世界を驚かせました。また、日本のアーティストとしては、2022年12月、元欅坂46の平手友梨奈のHYBE Japanへの移籍が発表され、今後はNAECO(ネイコ)というレーベルで活動する、との事です。(このレーベルがHYBEという名前とは別というのも、HYBEのうまい戦略なのですが・・・)

SMの買収については、これまでも様々な噂があり、2021年には、これまた大手エンターテイメントのCJ ENMが買収するという事で決着したかのように見えていました。しかし、実はこの買収は進んでいない事が判明し、KakaoやNaverなど韓国エンタメ界の主要プレイヤーが総出ですったもんだした末に今回はほぼ?HYBEが株式買収を進めていくことで進むようにみえます。

ここまでを見ると、HYBEはIthaca Holdingに約1200億、SMに440億円、もちろんこれだけではないですが、巨額な投資を続けながら、水平統合を繰り返しビジネスを拡大していっています。

HYBEの決算を見ると、2022年第三四半期の営業利益が約63億円である事から、これらがいかに巨大な投資であり、ビジネス上の大きな勝負である事がわかると思います。

出典:https://hybecorp.com/jpn/ir/archive/result/2408

HYBEのビジネス拡大の背景

ではなぜHYBEがこんな大きな投資を続けてでもレーベルを拡大したいのか、答えは二つあります。

1.HYBEのミッション

一つはHYBEが掲げる会社としてのミッションにあります。HYBEは2021年、前身のBig Hit Entertaimentから社名を変更した際に、「We Believe in Music」というミッションの元にエンターテインメントライフスタイルプラットフォーム企業にリブラディングする事を発表しています。

プラットフォーム企業と聞いて、思い浮かぶのは、AmazonやGoogle、Microsoftなど、生活やビジネスの根幹部分のサービスを提供する企業だと思います。Wikipediaではプラットフォームビジネスは「個人や企業などのプレイヤーが参加することではじめて価値を持ち、また参加者が増えれば増えるほど価値が増幅する」ものと定義されています。

つまり、HYBEが目指す世界は音楽を核として、人々の生活にいろんなプレーヤーを巻き込んで、価値を提供するプラットフォーム企業という事になります。そのための資源として、世界を巻き込んだレーベルの獲得を行っています。

*このプラットフォームの世界を実現するには、HYBEの持っているコミュニケーションツール「Weverse」が重要なファクターになるのですが、それはまた別で投稿します


出典:https://www.wikiwand.com/ja/HYBE

2.BTSの休止問題

もう一つの理由は、BTSの休止問題です。2022年12月13日、BTSのJINが徴兵に従ったことを皮切りに、各メンバーが今後順次兵役に行くスケジュールとなっています(3月にはSUGAも行っちゃうんですね。。。しくしく。。。)。これに伴い、BTSは既に活動休止を発表しているのですが、当然HYBEとしては、これまで多くの収益をBTS関連に頼っており、そこの収益が見込めないのは大打撃になります。実際に2022年第三四半期の営業利益は前年比8.3%減となっており、理由としては、新人アーティストの発掘や立ち上げとHYBEは説明しています。つまり、BTS依存からの脱却に多くのコストを割いており、しばらくはこの問題を抱える事になるはずです。そのため、Ithaca HoldongsやSMのアーティストが、HYBEの収益を向上させるための重要なリソースとなります。

HYBEのSM株式買収は正解?

結果的にHYBEのSM株式買収は、どのような結末もたらすのでしょうか。一つの可能性としては、HYBE傘下のSMに所属するアーティストが、HYBEのプラットフォームとシナジーを発揮し、HYBEとしては好業績を継続できる事が考えれます。たった10年間で小事務所だったHYBEがBTSを世界一のアイドルグループまでに育てたわけですから、他の人達がマネする事のできないノウハウをたくさん持っていると思いますし、そのノウハウを他アーティストに展開していくことで、大きな収益をあげられる可能性があります。

一方で、韓国エンタメ界の一企業寡占化が進んでしまうと、今の中小事務所の活動は制限されてしまい、新しいHYBE、新しいBTSが出てきにくい環境になってしまいます。「あまり大きくない事務所のまだ売れてないアイドルが、グローバルに挑戦していくストーリー」が支持されてHYBE/BTSが大きくなったという一面があり、そのストーリーが描きにくい環境になってしまうという事は、韓国エンタメ界全体で考えると悪影響をもたらすかもしれません。

いずれにしても、HYBEのSM株式買収(BTS休止も含めて)により、韓国芸能界のパワーバランスが一気に変わった事は間違いありません。世界を席巻するコリアンコンテンツが、どのような方向に向かっていくのか、今後も見ていきたいと思います。

HYBE SM 株式買収
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